フィッシュストーリの吹き溜まり

小さな岬のある物語

 海老取川が多摩川に合流するところ、東京大空襲の際の水難者を祀った五十間鼻無縁仏堂の下、海側に突き出した小さな岬がある。

 祖母が「そこまで、そこまで」と孫が岬の先へ先へと進んでいこうとするのを止める。孫は水鳥の群れを見ながら先へ先へと進んでいく。祖母は声をかけ続ける。孫は進む。そしてはたと止まる。きっと孫はどこまでが安全か本能的に分かっていたし、祖母がいるという安心感がなければそもそも進んでいかなかっただろう。

 次にやってきたのは親子三人。母と娘(姉?)と息子(弟?)。先ほどの二人よりも、もっとゆっくりと岬を進んでいく。母と娘は岬の真ん中あたりで立ち止まって話をする。しゃがみこんで何か見ている。どんな話をしているのだろうか?魚や貝なんかがいるのだろうか?それとも何か面白いものが沈んでいたのか?弟のほうは先へ先へと進んでいく。男の子はお話よりも冒険である。しばらくすると弟のほうは戻ってきて、先ほど母と娘がしゃがみこんでいたあたりで同じようにしゃがみこんで何か見ている。逆に母と娘はもう少し岬の先へ。そして娘のみがさらにさらに先へ。するとほとんど同じタイミングで姉と弟は振り返り、岬の真ん中にいる母のもとへ戻っていく。

 海老取川へ入っていく釣り船が岬に波を立てる。親子が私のほうを向く。そろそろ夕暮れだ。帰ろう。誰もいない家へ。

 

≪終わり≫